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耳より法律情報(メールニュース)
十分な補償や支援のないまま「自粛」を強要することは憲法に違反する

 「コロナ自粛」の嵐の中、今一番大手を振っているのは「特措法」(新型インフルエンザ等対策特別措置法)という法律だろう。この法律に基づいて、「緊急事態宣言」が発出され、外出やイベントの自粛、各種施設の閉館が「要請」され、これに従わざるを得ない社会状況が生まれている。

 たしかに、新型コロナウイルスの感染拡大は何としても防がなければならず、だからこそ多くの国民はこれに応じて「自粛」している。

 しかし、本来、移動の自由(憲法22条1項)、営業の自由(憲法22条1項)、勤労の権利(憲法27条)、生存権(憲法25条)などは基本的人権である以上、その制限は必要最小限なければならず、「コロナの感染拡大防止」の錦の御旗のもとにこれらの自由や権利を事実上奪うようなことは許されない。

 特に、「自粛」によって莫大な損失が生じ、企業や自営業者が倒産したり、労働者やフリーランスの人たちが最小限必要な生活資金がなくなってしまうような場合、国として十分な補償や支援を行うことは憲法上の要請である。

 この点、憲法29条3項は、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」としている。この条項は、狭い意味では土地などの公用収用についてのものであるが、個人の財産である施設や店舗の使用を、コロナウイルスの感染防止のために禁止することは「公共のために用ひる」に当たるといえる。したがって、法律でこれらの使用を「禁止」する場合には「正当な補償」が憲法上求められる。

 つまり、法律による施設や店舗の稼働の「禁止」であれば、これに対する損失の「補償」が一体として行われなければならないのである。

 また、労働者や一人親方、フリーランスの人たちは、施設や店舗はなくても、働かないと食べていけないのであるから、いわばその労働力を「私有財産」に準ずるものと考えて、同じく「正当な補償」がなされるべきである。このことは、「すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する」と定める憲法25条1項、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定める同条2項の要請でもある。

 特措法24条9項は「協力の要請」、同法45条2項は「措置の要請」にとどまっており、本来強制力はないものである。また、同法3項に基づいて「措置の指示」ができるのは、「施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないとき」で、かつ、「新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り」という厳しい要件が課せられている。

 それでも、事実上「禁止」するに等しい「自粛要請」をするのであれば、十分な補償や支援がセットで行われなければならない。

 現在、大阪府などいくつかの知事都府県の知事は、要請に従わないパチンコ店について、同法45条2項による「要請」に応じないとして同法4項によって店名を公表し、さらに同法3項に基づく「指示」までを行おうとしているが、上記の厳しい要件を満たしているとは思えず、半ば見せしめといわざるを得ない。

 しかも、同法には、不利益を受ける者の不服申立方法も定められていないのである。 私たちは、政府に対して、十分な補償や支援を要求していくとともに、特措法の不当な運用に対して、もっと厳しい目を向けていかなければならないと思う。

                             (弁護士 岩城 穣)

 

(メールニュース「春告鳥メール便 No.24」 2020.5.1発行)

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