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事件報告
障害者になったら解雇は当然?

一 「目が見えにくくなり、難しい病気であることがわかったときは、本当にショックでした。でも、拡大読書器や拡張機能付きパソコンなどの補助器具を使えば、元の仕事は可能であることを知りました。目が見えにくくなっても、私は働きたい。働く権利はあるはずです。妻や友人、弁護士さんたちに相談した結果、裁判所に解雇無効の訴えを起こすことにしました」。本年2月19日、大阪地方裁判所の司法記者クラブで行われた記者会見の場で、二見徳雄さん(49歳)は、自分で読みやすいように大きな文字で手書きした原稿に、目を近づけて読み上げた。
 二見さんは、1966年に関西電力に入社、以来30年間にわたり、送電設備の設計などの業務を誠実に行ってきたベテラン従業員である。ところが93年ころから視力が急激に低下しはじめ、94年6月から休職して療養に務めたが、「視神経炎」と診断されたものの原因不明のまま、96年8月視力障害3級(両眼とも0.04)の認定で、身体障害者手帳の交付を受けた。
 二見さんは「中等度労働は可能」との医師の診断書を添えて、何度も会社に復職を申し入れた。ところが会社は、就業規則の規定を楯に、「元の仕事ができない限り、退職してもらう」として、96年12月1日、二見さんの解雇を強行したのある。

二  現在、障害者は全国で300万人に上ると言われ、二見さんのように病気や労働災害、交通事故などによって中途障害者となる人はその過半数を占めている。現代社会では誰でも、今は障害がなくても様々な要因によって障害者となる可能性があるといえる。

三  かつて障害者は、同情や救済の対象と考えられていた。しかし、国連での「障害者の権利宣言」の採択(七五年)、国際障害者年(81年)、国連障害者の 10年(83~92年)などを通じて、障害者の人権についての考え方や法体系は国際的に目ざましい発展を遂げてきた。
また、人権の先進国といわれるアメリカでは、90年には、雇用についてのあらゆる差別を禁止する「障害を持つアメリカ人法」(ADA法)が制定された。そこでは、①障害者を積極的に排除すること、②障害者が不利になる一律の基準を適用して、結果的に障害者を排除すること、③障害者が対等に働けるための適切な配慮・措置をとらないこと、の全てを差別として明確に禁止している。

四  現在国際的に承認されている、障害のとらえ方の到達点は次のようなものである。
障害にはインペアメント(機能不全)、ディスアビリティ(能力不全)、ハンディキャップ(社会的不利)の3段階がある。例えば、「視力が低い」というのがインペアメントであり、そのために「小さな文字は読めない」というのがディスアビリティであり、「それを理由に雇用の面で差別される」というのがハンディキャップである。
そして、障害は、ある個人とその環境の関係において生ずるものであり、ディスアビリティをハンディキャップにならしめている社会条件を見つめなければならない。「障害者などを閉め出す社会は弱くてもろい社会」であり、社会を障害者、老人などにとって利用しやすくすることは、社会全体にとって利益となるものである。

五  わが国でも、このような国際的な流れの影響を受け、また障害者やその家族、関係者の粘り強い運動によって、障害者の尊厳を宣言し、権利を保障する法体系が整備されてきた。障害者基本法(94年)の第3条1項は、「すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するものとする。」とし、同条2項は「すべて障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする。」としている。更に同法15条は、障害者の雇用の安定、推進と継続を企業に義務づけているのである。

六  このように、国際的にも国内的にも障害者の人権を守り、社会参加を進めようという状況が広がっている中で、公益事業を営む大企業である関西電力が、「障害を持った」という理由だけで二見さんを解雇することは、社会的に許されないことである。
その意味で、この裁判に勝利することは、二見さん個人の人生のみならず、障害者全体、更には国民全体の権利を発展させることにつながるものである。私はこの事件は、障害者の生存権をめぐって闘われた堀木訴訟(障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止規定が憲法違反だと争われた事件)に続く次の歴史的段階、つまり障害者が自ら積極的に「働く権利」を求め、使用者に対し、「その尊厳にふさわしい処遇」を求めて立ち上がった歴史的な憲法訴訟であるし、またそうしていかなければならないと考えている。
相手に不足はない。絶対に負けられない。必ず勝ってみせる。──二見さんの記者会見での訴えを聞きながら、私は熱い思いがこみ上げてくるのを抑えられなかった。
二見さんの提訴は、テレビ・新聞で大きく報道され、社会的な関心の高さを示した。皆さんのご支援、ご協力をお願いしたい。
(なお、この事件の弁護団は、松本晶行、山名邦彦、井上直行、神谷誠人の各弁護士と、当事務所の蒲田豊彦、私の6名である。)

(いずみ第5号「弁護士活動日誌」1997/3/15発行)

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