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法律相談 Q&A
働きすぎを防ぐために-「過労死防止基本法」が求められる背景とは

死ぬまで働かされる――。近年、長時間労働を強いる企業に若者が使いつぶされ、心身の健康を害したり、自殺に追い込まれる事例が報告されるなど、「働きすぎによる死」が相次いでいる。

そんな中、国に対し、総合的な対策を求める動きがある。「過労死防止基本法」の制定に向けた取り組みだ。過労死遺族や弁護士らでつくる「過労死防止基本法制定実行委員会」によると、2010年秋から始まった法案制定を求める署名活動には、今年9月11日時点で46万人を超える賛同が集まっている。

「働きすぎ」を防ぐためには、労働基準法をはじめ、労働組合法や労働契約法など、すでにいくつもの法律がある。今回の「過労死防止基本法」は、すでにある法律と何が異なるのだろうか。制定されることで「過労死防止」への取り組みはどう変わるのか。過労死防止基本法制定実行委員会の事務局長をつとめる岩城穣弁護士に聞いた。

●「過労死防止」の基本理念を明確にする法律

そもそも「過労死防止基本法」とは、どんな法律なのだろうか。

「過労死防止基本法の主なポイントは、次のような内容になるべきだと考えています。

(1)労働者全体、さらには勤労市民全体の過労死を防止するという基本理念を掲げること

(2)国と自治体、使用者(雇用する側)の責務を明確にすること

(3)過労死・過労自殺についての調査・研究と、それに基づく総合対策を国などが行うこと」


この「基本法」は労働基準法などと何が違うのだろうか?


「基本法とは、最高法規である憲法と個別の法律の間にあって、国政にとって重要な問題について、基本的な制度・政策・対策などについての理念や原則を明らかにする法律です。


現在わが国には、約40の基本法があり、近年では自殺対策基本法や肝炎対策基本法などがあります。


労働分野では労働基準法や労働組合法、労働契約法をはじめとする多くの法律がありますが、労働分野の基本法はまだありません」


●現在の法律は「過労死・過労自殺」の歯止めになっていない


いま、「基本法」が必要なワケは?


「残念ながら、労働基準法をはじめ、労働安全衛生法、労働組合法や労働契約法などは、過労死・過労自殺の有効な歯止めとはなっていません。その現状を変える必要があるのです」


現在のルールのどこが問題となのだろうか? ポイントを挙げてもらった。


「たとえば労働基準法は、労働時間の規制を中心に労働者の保護を図る法律です。ところが、労働時間の上限について規制はなく、使用者は、労働組合または労働者の代表と協定(36協定)を結べば、実質的にはいくらでも残業をさせることができてしまいます。


この点について、厚生労働省は、たとえば1週間の時間外労働の限度を15時間とするといった『時間外労働の限度に関する基準』を策定していますが、法的強制力はなく、これを超える36協定も、受理せざるを得ないのが現状です」


岩城弁護士は続ける。


「また、たとえば深夜・交替制労働や過重な責任・ノルマといった労働の質的な過重性や、パワハラなどについても労働基準法は規定していません。


そのため、時間外手当の不払いと一体になった長時間労働に、労働の質的過重性やパワハラが加わるなどして、過労死・過労自殺が広がっているのです」


確かに、そこには「過労死を防ぐ」という観点が不足しているように思える。


「また、公務員労働者にはそもそも労基法の適用がありませんし、トラック・タクシーなどの労働者の運転労働については、非常に長い拘束時間が認められています。こうした問題点は他にも数多くあります」


●働く人すべてが対象の「総合対策」が可能になる


それでは、「過労死防止基本法」の制定によって、事態はどんな風に変わるのだろうか。


「この法律が制定されると、次のような取り組みがなされるでしょう。

(a)過労死を防止する責務が明確になった国・地方自治体・使用者などは、それぞれの立場から様々な啓発活動・キャンペーンを含め、各種の具体的な取り組みを行うことになります。

(b)国は過労死・過労自殺の実態についての調査と、その防止のための研究を系統的に行い、それを踏まえた総合的な対策を行うことになるでしょう。

(c)その総合対策は、民間労働者・公務員を問わず、企業の役員や自営業者をも対象とし、また学校教育や就職指導、国や自治体の相談体制や医療体制の確立など、省庁や分野を超えたものになるでしょう」


この基本法には、労働法の枠組みを超えた、幅広い範囲への影響が期待されているようだ。「過労死」を社会からなくすためには、立場の違いを超えた協力が必要ということだろう。


岩城弁護士は「このような過労死防止基本法の制定を実現するために、今こそ国民の世論を高め、国民全体の声として立法を求めていく必要があります」と強調していた。

(2013/10/12弁護士ドットコム・トピックス掲載、「いわき弁護士のはばかり日記」No.139)

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