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事件報告
看護師の長時間・不規則勤務による過重労働を「公務災害」と認める

看護師の長時間・不規則勤務による過重労働を「公務災害」と認める─国立循環器病センター看護師・村上事件大阪高裁で完全勝訴─

 「とりあえず帰って来ました。眠すぎる!」平成一三年二月一三日、国立循環器病センター(吹田市)の脳神経外科病棟の看護師であった村上優子さん(当時二五歳)は、前日の「準夜」勤務(午後三時四五分~午前二時一五分の一〇時間三〇分)、当日の「遅出」勤務(午前一一時~午後九時一五分の一〇時間一五分)を終えて帰宅した午後九時四五分、友人にこの携帯メールを送信した直後、激しい頭痛を感じた。親しい同僚に電話し、救急車で勤務先の病院に搬送され手術を受けたが、約一か月後の三月一〇日、帰らぬ人となった。病名は、「脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血」であった。

 同年六月一六日、お母さんの加代子さんが「過労死一一〇番」に電話し、その後七年以上にわたる取り組みが始まったが、優子さんの残した携帯やパソコンのメールの内容や送信時刻と、わずか月一五~二〇時間とされている「時間外勤務命令簿」の間には、あまりに大きな差があった。

 一年後の平成一四年六月、公務災害の認定請求を行うとともに、同年七月、国を被告とする損害賠償請求訴訟を提訴した。医療従事者の労働組合や退職した仲間たちの支援も受けて頑張ったが、民事訴訟は大阪地裁(平成一六年一〇月)、大阪高裁(平成一九年二月)、最高裁(同年一〇月)とすべて敗訴であった。

 公務災害の認定請求も、平成一六年五月公務外とされ、人事院に審査請求をしたが平成一七年一一月棄却された。そこで、民事訴訟の地裁敗訴後の平成一七年五月二五日、国(厚生労働大臣)を被告として、公務外認定処分の取消しを求める行政訴訟を提訴した。「五連敗」の中での苦しい闘いであったが、昨年一月一六日、大阪地裁は優子さんの死亡を公務災害と認める原告勝訴の判決を下した。国は控訴したが、一〇月三〇日、大阪高裁は国の控訴を棄却する画期的な判決を出した。そして一一月一三日、参議院の厚生労働委員会で舛添厚労大臣は「本件は上告しません」と答弁し、高裁判決が確定した。優子さんが倒れてから七年九か月目の「公務災害認定」の確定であった。

 医師の不足や過重労働が大きな社会問題となっているが、看護師の過酷な長時間・不規則なシフト勤務も極めて深刻である。厚生労働省の「お膝元」で最先端医療を行っている国立循環器病センターでさえ、膨大なサービス残業が蔓延していること、強い精神的緊張と極度の睡眠不足によって情熱を持った若い看護師が過労死したことを、大阪高裁が認めた意義は大きい。民事訴訟は敗訴で確定しているが、過酷な労働によって優子さんが亡くなった以上、その責任が、使用者であり医療行政をつかさどっている国にあることは明らかである。国もすべての病院もぜひこの判決を受け止め、人手不足を解消し、看護師さんたちが元気で働け、私たち市民が安心してかかれる医療現場にしてほしい。それが、わずか二五歳で亡くならなければならなかった優子さんとご両親の無念に、わずかでも報いることになるだろうと思う。

(いずみ第25号「弁護士活動日誌」2009/1/1発行)

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