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春告鳥 第4号
病院運営法人には勝訴確定 最高裁は上司の個人責任を認めず

・青年医師が赴任後わずか2か月で自死

 

 青年医師のKさんは、鳥取大学での2年間の臨床研修を経て、平成19年4月に同大学の整形外科に入局し、同大学附属病院で半年間勤務後、同年10月から公立八鹿病院(兵庫県養父市)整形外科に赴任しましたが、過酷な長時間労働と上司2名からの執拗なパワハラによってうつ病を発症し、同年12月10日に自死しました。
 平成20年8月、地方公務員災害補償基金はK医師の自死を公務災害と認定し、同年12月、Kさんの両親は、病院を運営する公立八鹿病院組合とパワーハラスメントを行った上司2名を被告として民事訴訟を提起しました。

 

・病院に対しては、一審・二審とも勝訴


 一審の鳥取地裁米子支部判決(平成26年5月26日)は、月170時間に及ぶ時間外労働と上司医師2名のパワハラを認定して病院組合の責任を認めたうえ、同病院における雇用関係や業務上の協働関係は民間病院と異ならないとして、上司の個人責任も認めました(ただし、K医師が医師であり自己管理を期待できたことなどを理由に過失相殺規定を類推適用し、損害額の2割を減額)。
 これに対し、二審の広島高裁松江支部判決(2015年3月18日)は、私たちの主張を容れて減額を認めませんでしたが、「公立病院における医師を含めた職員の継続的な任用関係は、特別職を含め全体の奉仕者として民主的な規律に服すべき公務員関係の一環をなすもので、民間の雇用関係とは自ずと異なる法的性質を有する」「これら公務員に対する指揮監督ないし安全管理作用も国賠法1条1項にいう「公権力の行使」に該当する」として、公務員であることを理由に上司の個人責任を否定しました。

 

・上司の個人責任について最高裁へ上告するも、受理されず


 民間病院であればパワハラを行った上司も連帯責任を負うのに、公立病院であれば負わないというのは、いかにも不合理ではないでしょうか。
 この理屈で行けば、私立中学校の教師が体罰を振るったら個人責任を負うが、公立中学校の教師であれば負わない、私立大学の教授が学生にセクハラをしたら個人責任を負うが、国公立大学の教授であれば負わない、ということになってしまいます。実際、これまでそのような裁判例がいくつも出ていました。
 そこで、難しいことは覚悟のうえで、Kさんの両親は最高裁に上告しました。上告受理申立理由書には、我々3人の弁護団を含め53人の弁護士に名を連ねてもらい、また立命館大学法科大学院の松本克美教授に詳細な意見書を書いていただいて提出しました。
 しかし、本年3月16日付けで最高裁から届いた「上告棄却・不受理決定」には、例によって「法定の上告理由に該当しない」、「受理すべきものとは認められない」という定型文言のみで、具体的な理由はいっさい書かれていませんでした。これが、民主国家の最高裁判所といえるのでしょうか。
 とはいえ、ご両親が、「息子の為に、私達夫婦家族の納得の為に、やれるだけの事は全てやったという満足感に満たされています」「地裁・高裁とも勝訴であり、輝かしい結果を獲得した満足のいく裁判でした。ここまでやれば、やり残して後悔する事は何もありません。」とおっしゃってくれたことに、救われる思いでいます。

                               (弁護士 岩城 穣)

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